目が覚めた一平(
二宮和也)。夢だった。午前3時。電話が鳴る。
中居の松子(
高橋史子)からだ。「下にいる。ちょっと出てきて!」眠い目をこすって、一平は部屋を出て下に下りてきた。
「夕べ、私が言ったことウソだった。私の聞き違い。私の早トチリ。誰にも言わないで。無かったことにして。
ゴメンね。じゃあ、お休み」
元々、松子さんは、口の軽い人で今までも何度も勘違いをしていた。いわば前科があり、
竜次さんが辞めないということで、とりあえず、俺はホッとした。
その朝もいつもと何も変わらない朝で、竜次さんも何も変わらないわけで・・・
板場に律子(
岸本加世子)が来て、みんなに言った。
「今夜から、エリ(
福田沙紀)を手伝いに入れます。足手まといになると思いますが、みんなで鍛えてやって下さい」
エリさんを手伝いに入れるということは、働くというより、仕事見習いの意味が強く、
お嬢さんはいずれ、若奥さんを継いで、店を切り盛りする立場であり・・・
神楽坂は、師走の気配が近づいてきており、店もモーレツに忙しくなったきた。
時夫(
横山裕)も下積みの仕事を覚えてきていた。
12月10日、東京に初雪が舞い降りてきた。
そんな中、一平は、若奥さんの部屋に呼ばれた。この前の事件以来、話すのは初めてだった。
気まずい思いで、若奥さんの部屋にいった。
「この前のアパートの件、空いたみたいだから、店が空いたら一度、見に行ってらっしゃい
用事は、それだけ」
「一平君、この前はごめんね、きついこと言っちゃって。あの時は逆上しちゃって。
いろんなことがありすぎて、辛いのよ、私も」
翌日の昼休み、おかみさん(
八千草薫)からメールが来た。
パティオで待ってるという内容だった。
パティオというのは、売れっ子だったみどりさんという人がやっているコーヒーやさんだ。
おかみさんは、ガモカジで決めていた。
巣鴨に行ってきた帰りだと言う。
「ごめんね、この間、迷惑かけて。それで、これ、あの時のお礼」
お礼というのは、赤いパンティーだった。
「赤い下着って、パワーが付くのよ。絶対!最高ー!そっちのは、ゆき乃ちゃんの」
「ねえ、どの段階で見つかったの?」と、この間のことを興味深々で聞くおかみだった。
一平が、引き出しを開けて、カードと現金を取り出したところだと言うと、
「そこまでいってたんだぁ」「おしい」としきりに感心する夢子。
エリに見つかって、大きな声出しそうになったから、口ふさいで、
そこへ竜次さんが来たと、ことの経過を細かく話すと、
「まあ、竜さんて、やな人。私だったら、心臓麻痺起こしちゃう」
失神しましたと、一平が言うと、「演技じゃなくて?」
「狸も捕まると、失神するんだって、この間、テレビの自然番組でやってた」
どこまでも、マイペースな人なのだ。
「24日の夜、時間ある?」と、夢子は一平に”第九”のコンサートのチケットを2枚、渡した。
エリを誘って、このコンサートに2人で行ってやってくれというお願いだった。
一平を呼び出した本当の理由は、どうもこちらの方らしかった。
「あの子、落ち込んでるのよ。熊沢のおじいいちゃん(
小林桂樹)の葬儀が、青山斎場で行われたって、
新聞の記事、読んで」
「聞いたぞ〜!揉んだな!隠さなくていいのよ。男はあそこに自然に手が行くもの」
あの夜のことを、夢子はえりから聞かされていたらしい。
「揉んでないです」
夢子とエリは、2人で固く結束しているらしかった。
事件が起きたのは、その夜だった。
律子が板場に来て、魯山人の皿の端のかけを見つけた。
このところ、高級皿の破損が続いていたのだ。
律子は、お運びの責任者であるすみ子の責任だと言い、
後で、自分の部屋に来るように、みんなの前できつく言い渡した。
緊張感が走る板場。そこへ、夢子が現われた。
「ちょっと見せてくれる?」と、欠けた魯山人の皿を見て、夢子は事も無げに言った。
「あー、この程度ね。私が金継ぎやってみる。昔は、りつ子がよく欠いてね。
あなたが落ち込むこと無いのよ。誰がいつ欠いたかわからないもの。後で、私の部屋に持って来て」
と、助け舟をだしてくれたのだ。
初めて、この時、夢子も伊達におかみさんと呼ばれてるわけじゃないなぁと思いました。
金継ぎとは、小麦粉と漆を塗り合わせて欠けを継ぎ、継いだ上から傷に純金で蒔絵を
して繕う伝統の技法だと、竜次が一平たちに説明した。
「おかみさんくらいの年の人には、自分でやってしまえる人もいるんだ。
ちょっとした職人芸だ。いい機会だから、見せてもらえ」
すみ子さんは、結局、みんなが帰るまで、りつ子のところから帰って来なかった。
アパートに帰った一平に、居候の(時夫)が番町更屋敷の話をはじめた。
少年院の貸し出し図書で読んだというのだ。
今日の魯山人のことらしかった。
「ごろまきは、5分が限度って話があるんだ。やくざの世界の鉄則で、
それ以上やると、相手は開き直っちゃうんだって」
すみ子を部屋に呼んで、お説教するりつ子のことをトキオなりに例えた話。
それよりも、一平は、あれ以来ナオミ(
黒木メイサ)から連絡がないことを気にしていた。
次の日、一平はラムールへ、こっそり出掛けた。
店の中のガラス張りの工房で、白衣の女の人が黙々とケーキを作っているわけで・・・
ナオミさんも黙々と作っていた。
人が黙々と働く姿は純粋で美しく、もしかして、俺が坂下で働いている時も
こんなに美しい菅となのかな?と想像していると、そこへ、エリがいきなり現われた。
えりは、友達のゆう子を連れていた。
ゆう子に時夫を紹介して、自分と一平、トキオとゆう子でクリスマスイブに
ダブルデートをしようと、勝手に決めたことを一平にはしゃいで話すえり。
とまどっている一平の携帯に、突然、電話がかかってきた。
「いらっしゃい、来てくれた。でも、今、忙しくて出られないの。
クリスマスシーズンが終わったら、連れて行きたいフランス料理のレストランがあるの」
「メールアドレス、教えて」
朴訥としている一平のの表情が、一気に明るくなった。
明るいを通り越して、もう、解けそうなほど、デレ〜っと間延びした顔だ。
板場での一平は、今までにないほどに、はりきっていた。
その様子に、竜次も呆気に取られていた。
”父上さま、俺は興奮しています。俺にも、やっと遅い青春がきた気配があり・・・”
浮き足立っている一平の側に、時夫が来て、昨日のことを耳打ちした。
「若おくさん、ゴロの巻きすぎだ。すみ子さん、とうとう切れちゃって、
銀行からおろして、キャッシュで50万円、もってきたんだ。それで、みんなで集まって、
すみ子さん一人の責任にしていいのかって話になって、おかみさんが間に入ってくれて、一件落着」
そんなことが起きていた時、自分だけが青春的世界に浸っていた一平は、ちょっと反省した。
しかし、反省してもどうしようもないことなのだと思い直す一平だった。
仕事の合間を縫って、一平は、横寺町のアパートを見に行った。
清潔な感じの角部屋で、今のアパートよりも広かった。
トイレに座ったり、お風呂桶に入ったりして、一人、ナオミをこの部屋に呼ぶことを
想像するのだった。
そんな妄想をしながら、窓辺をふと見ると、向かいのアパートの部屋の窓辺で
足を顔の横まで持ち上げてストレッチする女性の姿が見えた。
よく見ると、それはすみ子だった。
驚いた一平。
すぐさま、一平はすみ子の部屋に向かった。
「嫌な気分の時、やると落ち着くのよ。昔、ダンスやってたから」
嫌な気分とは、あの事件のことだ。
部屋を見回すと、学習机や、子供の家具が隣の部屋に並んでいた。
「お子さん、いるんですか?」
「いるわよ。お宅と同じよ。シングルマザーなの」
すみ子は、小学3年生の女の子と暮らしていた。
部屋ひとり片付けなどをするすみ子を見ていて、自然にその姿を
自分の母親、ゆき乃とダブらせている一平。
そういえば、今日は、雪乃ちゃん(
高島礼子)の誕生日だった!
喫茶店「ルオー」に立ち寄った一平は、マスター(
久保隆徳)に
この間、神楽坂で撮った津山冬彦が掲載されている雑誌を見せられていた。
マスターは、何気なく写り込んでいる自分に満足しているのだ。
自分を指して、「ねっ、神楽坂って感じするでしょ?持ってっていいわよ。
私、何冊も買ったから」
一平は、そのグラビアの津山冬彦(
奥田瑛二)を複雑な思いで見入っていた。
実は、一平はルオーにフランス料理店を紹介してもらうためにやって来たのだ。
ルオーは、神楽坂のことなら、なんでもよく知っているご意見番なのだ。
「いいお店、あるわよ。行くなら、予約しといてあげる」
「カード効くかな?」
「その前に、私のサインほしい?」
「ほ・・・しい・・・」
「なら、予約する。安くするように頼んどいてあげる」
一平は、すぐにゆき乃に電話をした。
「今日、誕生日だろ?」
「憶えといてくれたんだぁ〜」
「フレンチ好き?」
実は、フレンチは喰ったことがなくて、今度、ナオミと行くための
予備知識を蓄えるためでもあった。
フランス料理店にゆき乃を誘った一平。
ゆき乃は、大喜びだ。
遠慮なく高いワインを注文するゆき乃にビビッて、
メニューを奪い取る一平。
「この間のこと、どうなった?」
「俺、店、辞める覚悟だったんだ」
「大げさよ〜」
そんな話をしながら、一平は、この間おかみさんからゆき乃へと頼まれた
例の赤いパンツが入った袋をゆき乃に渡した。
「なんだろ?」と、開けようとするゆき乃に「こんなとこで、開けんなよ」
と、慌てる一平。
「あと、これ、俺からのプレゼント。重いから後で俺が運ぶよ」
きょとんとするゆき乃に、気まずそうに言った。
「パチンコ。パチンコの玉。よく考えたんだけど、ゆき乃ちゃん、よくパチンコ行ってるから」
「ありがとう。うれしいわ」と、しばらく静かに感激している風だった。
単なる思い付きのパチンコの玉が、意外と効果を生んだらしい。
ワインが運ばれて来た。
グラスに注がれるワインを手に持ち、臭いを嗅いで、2,3回まわしてまた、臭いをかぎ、
口に含んで、口の中で転がして味わい深く飲むゆき乃を観察する一平。
「重みがあって、渋くておいしいワインだわ」
貴重なフレンチの知識の獲得に満足する一平だった。
「あっ、そうそう、今日、若おくさんから紹介された部屋を見に行ったんだ」
「横寺町にある、竹地ハイムっていって・・」
「一平、あんた、律子さんに取り込まれかけてるね!」
「?」
「あんた、竹地ハイムって知ってるの?」
「とうとう、始まったな〜、新坂下の人員確保」
「今の店、無くなるの?」
「土地も建物も、今の坂下、全部が売却されるのよ」
「他の人は?すみ子さんとか」
「すみ子さんなんかは、あの人は首だね。お母さん派だから」
「じゃあ、竜さんは?」
「あの人は、身を引くよ」
「それ、本当?」
「信頼すべき筋からの情報だから」
「信頼すべき筋って、どこ?」
「あんた、絶対、言っちゃダメよ。真田さん」
「真田、真田公正(
小野武彦)?」
「竜さん、熊沢の旦那の病室に呼ばれて、そろそろ、保さんと律子さんを立てて、あんたが身を引いてやれ
って言ったんだって。それで、わかりましたって、竜さん言ったんだって」
おもしろいテレビ番組は?
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